旅のエッセイ 『おとなふたりのバスク』Vol.3 初日から私達を街の人にしてくれたサンセバスチャン

Casa Alcalde

前回「バスク情報=美食話」と書いたけれど、その多くは、サンセバスチャンのバル、ピンチョスの情報。有名店をはしごするYouTuber が「マジ美味しい!」というピンチョスの映像には、理屈抜きで魅せられます。実際私も、それを参考にしてお店と必食のピンチョスをピックアップし、バル巡りのルートを決めました。リアルな店の活きの良さは半端なく、どのピンチョスも一口で「美味しい!」と声にせずにはいられない代物ばかり。「ほんとに食レポの通りなんだ」と妙に感動しました。だけど、バルの魅力は美食の提供を遥かに超えたもので、行かないとわかりませんし、食レポでは伝えられないものです。

着いた初日にバルに数軒立ち寄った頃には、慣れ親しむ界隈になってました。カウンター越しの店員さんも、並びのお客さんも、旅行者を別扱いするでもなく、入り込むこともなく、程よく放っておいてくれるのがとっても心地よいのです。さりげない優しさに包まれた街です。

そんな関係性を生むツールが、ピンチョスであり、地元名産のチャコリ※。それって、今日・明日頑張ってできることじゃないのは明らかです。街の人が、お店の人が郷土を本気で大切にしてて、豊かなくらしを守ろうとしてるから、一期一会の旅人も、その素敵な日常に便乗できるのです。

©︎Donostia San Sebastián Turismo

目には見えない魅力とは別に、目に見える街の構成ー規模感・地形・街路・建物ーも親しみやすさを感じるポイントです。イラストマップで納得頂けると思いますが、南北に流れるウルメア川を軸に東西そして、南北の4ブロックで街の景観と意味付けがされているから把握しやすいです。バルひしめく旧市街は、通りは碁盤の目、歴史ある重厚な建物にバルの看板の字体や絵柄が個性的なので迷うこともありません。

優しさはそれだけではありません。旅先でなきゃ味わえない「日常」が最高の贅沢だと教えてくれたのもこの街でした。ちょっと早起きして、ホテルにほど近いクリスティーナ公園を散歩。朝日に新緑きらめく中、樹木の匂いを感じ、朝露で艶やかな花を撮りながら遊歩道を進むだけで心が満たされてきます。

公園通り沿いのバルで出されたアメリカンコーヒーとトルティーリャは普通に美味しいです。常連のおじさん達は、エスプレッソを慣れた手つきでカウンター向こうの店主(家族経営のおかみさんらしき人)から受け取り、ひとしきりしゃべっていつの間にかいませんでした。バルはまるで家のダイニングキッチン。そこに突然お邪魔して朝ごはんを頂いたけど、なんの気兼ねもなく食べて、さあ行こうか♪の気分です。私の日常では到底叶わない、ドラマのようにステキな日常の朝でした。

※チャコリとは 

チャコリ(バスク語: Txakoli, [tʃakoˈli]またはスペイン語: Chacolí, [tʃakoˈli])は、微発泡性でごく辛口、酸味が強く、アルコール度数が低いワインです。 主にスペイン北部のバスク州、ナバーラ州、カンタブリア州、ブルゴス県北部で栽培・製造される葡萄を使用しています。

ヨーロッパai

ヨーロッパを旅して30年。建築やグルメ、ライフスタイルと幅広い分野で執筆。最近はエイジングライフを切り口にしたコンサルタントとしても活躍中 !

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