ビルバオ滞在3日目、初夏らしくよく晴れた中、ビルバオ市の中心モコア広場から地下鉄で20分の世界遺産ビスカヤ橋のある港町へ向かいました。かつて海運業で栄えた街だけあって、集合住宅の多くはかなりの年数が経っていますが、手入れが行き届き、成熟した美しさを持つ閑静な郊外住宅地になっています。
その住宅街を10分程歩き運河に突き当たると威風堂々としたビスカヤ橋が忽然と現れます。その凛々しい姿にしばし足が止まりました。建設されて130年、今でも住民や車を黙々と運河の対岸へ渡す姿は、老練な職人の手仕事のようで、飽きることなく眺めていられます。
鉄骨のフォルムがレリーフのようにエレガントなのは、さすが、エッフェル塔の設計者エッフェルの弟子だけあります。 ゴンドラが音もなくゆっくり動くさまも、今の輸送手段には真似できない優雅さを感じます。いざ乗車しようとチケット販売機の前に立ったものの、スペイン語の解説がよくわからず‥‥もたもたしていたら、改札の係員さんが黙って近寄り、私が持っていた紙幣を小銭にくずしチケットを買って手渡してくれました。一連の所作が自然に流れてしまい、 事務所に戻っていく背中に思わず日本語で「ありがとう」と言う間しかありませんでした。
ビスカヤ橋で感じた佇まいの美しさ、物静かな優しさは、街づくりそのもの、住む人々の暮らしぶりも同様です。海岸に添った道は、歩行者・自転車・車が分離され、当たり前にルールが守られてています。遊歩道には、シニア向けのトレーニング用具があり、車いすで散歩しても、道の造成は何の危なさ、ストレスもありません。年齢やハンディキャップ関係なく普通に往来する、こんな街の風景は日本ではまずみることはできません。
帰りはお昼どきだったので、街の人出を見たくて商店街とおぼしきところを選びながら駅へ向いました。その道には、街路樹と共にベンチも数多く列をなしています。犬と散歩途中の人、マダム同志のひそひそ話、車いすのシニアとヘルパーさんらしき人の休憩。様々な立場の人が隣り合って過ごしていました。その場面があまりに自然すぎて、映画撮影のつくられたワンシーンかと思うほどでした。ここでもバルは健在。店内では初老の男性が新聞を広げてコーヒーを飲み、道に張り出したパラソルの下では、ご婦人4人がブランチ後のおしゃべりをたばこをくゆらせながら楽しんでいました(スペインは喫煙者がけっこう多いです)
ビスカヤ橋のおかげで郊外の住宅地のくらしにつかの間同席させてもらい、豊かな時間を味わうことができました。